ルタテラ内用療法
「ルタテラ内用療法」とは?
当院では、昨年9月より、神経内分泌腫瘍に対する放射線性医薬品 「ルタテラ」 を用いた放射線内用療法を開始。平安名常一医師に、治療法について話を伺いました。ルタテラを用いた放射線内用療法とはどのようなものでしょうか?

ルタテラとは、放射性物質(ルテチウム177)を含んだ医薬品の一つで、2021年8月に治療が保険適用となりました。点滴にて投与したルタテラが病変にのみ選択的に取り込まれて腫瘍の内部でルテチウム177から放射線が放出される放射線治療の一種です。治療の対象となる疾患は、神経内分泌腫瘍です。この病気は、100万人に約10人の割合で発症する希少がんの一つで、全身に分布する神経内分泌細胞から発生します。小腸や大腸、膵臓、肺といった多くの臓器に発生するのが特徴です。これまで、神経内分泌腫瘍に対しては手術か、あるいは手術ができない場合に病勢の進行を抑えることを目的とした薬物療法が行われてきました。しかし、抗がん剤を含む薬物療法を行った場合は悪心や嘔吐、貧血などさまざまな副作用があり、治療を継続する事が困難となる場合が少なからず存在します。一方、ルタテラによる内用療法は治療に伴う副作用が比較的少なく、これまでとほとんど変わらない日常生活を送れるほか、腫瘍を縮小させ病巣の進行を抑制する効果が確認されています(左ページ下の写真参照)。神経内分泌腫瘍の治療ガイドラインでは、治療の第一選択は手術となっており、手術が困難な場合は薬物療法を行うこととされています。また、薬物療法でも効果が得られない場合はルタテラによる内用療法を行うこととされていますが、放射線内用療法は身体への負担が少ないことから、近い将来は薬物療法の前に行うことも検討されています。
具体的にどのような治療を行うのでしょうか?
神経内分泌腫瘍細胞の表面には、ホルモンの一種であるソマトスタチンが結合するソマトスタチン受容体が高頻度で発現することがわかっています。ルタテラはソマトスタチンの類似物質に放射線を放出する核種(ルテチウム177)を結合させた医薬品で、体内に点滴で投与されると腫瘍細胞表面に存在するソマトスタチン受容体にルタテラが特異的に結合します。そして結合したルタテラは腫瘍細胞内に取り込まれ、細胞内でルテチウム177から放射線(β線やγ線)が放出される仕組みとなっています(イラスト1参照)。しかし、ソマトスタチン受容体は全ての神経内分泌腫瘍に発現する訳ではなく、事前の検査によってソマトスタチン受容体の存在が確認できた場合に限り適用となります。この治療法のもう一つの特徴は腫瘍表面のソマトスタチン受容体に結合しなかったルタテラは速やかに対外へ排出され、体内にほとんど残らないということです。さらに治療の主体となるβ線は体内では数ミリ程度の範囲しか届かないため、がん以外の正常な臓器への影響を最小限に抑えることができます。ただ、β線と同時に放出されるγ線は体外へ出てくるため、ルテララの投与後は、体内の放射線量が周囲に影響を及ぼさない基準値以下になるまでは特別措置室で12泊程度の入院をしなければなりません。その間、患者さまは部屋の外に出ることはできませんし、また、他の人も部屋に入ることができないため、トイレや食事など、身の回りのことは患者さまご自身で行う必要があります。
ルタテラ治療Q&A
Q治療適応となる基準は?病理検査にて神経内分泌腫瘍と診断され、ソマトスタチン受容体が陽性である患者さまが治療適応となります。また、点滴後、体内の放射性物質の放出線量が退室基準を下回るまでは特別措置室で過ごさなければならないため、排泄や食事、内服管理などを自分自身で行うことができる、なおかつ、十分な腎機能、認知機能が保たれている患者さまが対象となります。
Q治療期間はどのくらいですか治療期間は概ね6ヶ月ですか?
治療期間は概ね6ヶ月です。ルタテラを2か月毎に2泊3日程度の入院で投与し、それを計4回行います。投与した後は3週間後に診察を行います。治療期間中も仕事を続けることができ、普段通りの日常生活を送ることが可能です。
Q痛みや副作用は起こりますか?
治療中の痛みはありませんが、腫瘍に取り込まれなかったルタテラは腎臓を経由して尿と一緒に体外へ排出されるため、放射性物質から腎臓を守るために腎臓を保護する薬剤を一緒に投与しなければなりません。この腎臓を保護する薬剤の副作用として吐き気の症状が現れるので、ルタテラの投与前に予防的に吐き気止めの薬を使用して副作用の出現を軽減します。また、骨髄は放射線の影響を受けやすく、貧血などが起きる可能性があるため、治療期間中は定期的に血液検査を実施し骨髄機能、腎機能などの確認を行います。
Q治療中・治療後に注意することはありますか?
腫瘍に取り込まれなかったルタテラは、尿や嘔吐物など排泄物として体外に排出されます。周囲の人への影響を避けるため、退院後も約1週間は日常生活で注意が必要です。排泄時はトイレの水を2回流す、入浴は家族の中で最後にする、浴槽はよく洗う、水分を多めに取るなどに気をつけます。